米揚げ笊(その2)

時代劇は専ら『水戸黄門』のマーです。『米揚げ笊』の後半は枝雀に語ってもらうことにします。
《以下、主にHP『特選上方落語覚書』1981/11/22 枝雀寄席(ABC)(1981.11.22)より引用》


■いま表で大きな声がしてるが、あら何じゃ?
▲笊屋が米揚げ笊を売りにまいっとります
■米、揚げ、笊、とは気に入ったやないか。呼んで買ぉてやれ
▲かしこまりました。お〜い、笊屋ぁ〜、戻っといでぇ〜戻っといでぇ〜!
と、普通なら招きますが。招くと手の先が下がる、これが気に入らん「お〜い、笊屋ぁ〜、戻っといでぇ〜」堂島のすくい上げっちゅうて、すくい上げとぉる。




●米を揚げる米揚げいか〜〜き
▲さぁ、その声が気に入って、旦さんが買ぉてやろぉとおっしゃる……、暖簾が邪魔なら外してやろか
●アホらしもない、暖簾を頭で上げて入る
■上げて入りよったがな番頭どん、嬉しぃやっちゃなみな買ぉてやるぞ。




●みな買ぉてもらいましたら、お家へ放ぉり上げる
■わっ! 放ぉり上げよった。嬉しぃやっちゃ気に入った。財布をもっといで、さぁ笊屋、嬉しぃやっちゃ一枚やるぞ。




●こんなんもらいましたら、飛び上がるほど嬉しぃ
■飛び上がる、もぉ一枚やろ
●二枚ももらいましたら、浮かび上がります
■浮かび上がる、財布ぐちやろ。お金は大事にせないかんぞ。




●大事にいたしませぇでかいな、神棚へ上げて拝み上げとります
■拝み上げてる、着物三枚ほどこしらえたげたってんかこの男に、嬉しぃ男やでホンマに。で、お前兄弟はあんのか?
●上ばっかりで
■上ばっかり、米五斗ほど運んでやんなはれ。嬉しぃ男やなぁ、兄さんはどこに居てんねん?




●淀川の上の京都でおます
■淀川の上、っちゅうのが気に入ったやないかいな、借家十軒ほどやってくれこの男に、嬉しぃ男やで、兄さんどんな男や?
●高田屋高助と申しまして、背ぇの高ぁい、鼻の高ぁい、偉高い、気高ぁい男でおます
■須磨の別荘やってんか、嬉しぃ男やなぁ、姉さんはどこに居てんねん?




●上町の上汐町の上田屋上右衛門といぅ紙屋の上(かみ)の女中をいたしております
■たまらんなぁ、大阪のお城と、梅田のステンショやってくれ……




▲そんなアホなことをおっしゃる……、旦さん何をおっしゃんねん、そんな無茶なこと言ぅてもろたら困りまっせ。そぉ何でもかんでも上げてしもたら、うちの身上(しんしょ)が潰れてしまいまんがな。
●アホらしもない、潰れるよぉな品もんと(ポンポン)品もんが違います。


《最後のサゲは、実は笊屋重兵衛さんに次のように教えてもらったとおり。タイミングが偶然、絶妙だったわけです。》
▲はじめから品数が多いとややこしぃ。
大間目(まめ)、中間目、小間目に米を揚げる米揚げ笊と、この四通りにしておます。
何でこぉして売りに行てもらいますかと申しますと、二八(にっぱち)と申しまして二月と八月に切った竹はどぉといぅことはないんですが、あいだに切った竹は虫がついて粉を吹きます。




▲使い込んでもらうとどぉといぅことはないんですが、やっぱり買いなはる時、皆さん方嫌がりなさる。うちで売るわけにいかん、こぉしてあんさんに売りに行てもらいます。売ってもらいます時にちょっとコツがおましてな笊をば二ぁつでも三つでも重ねてもらいます。上から(ポンポン)と叩いてもらう。
▲「叩いてもつぶれるよぉな品もんと品もんが違います」「強いねんなぁ、丈夫やねんなぁ……」なかなかそぉやおません。叩いて粉ぉを下へみな落してしまいます。これが商売の駆け引き、コツですなぁ。




ぼんやりフリーターの(野球でいえば)ポテンヒットといったところでしょうか。
それにしても、財布に米、別荘その他は結局もらえたんだろうか。
「くれてやる」という申込に対して「もらいます」というはっきりした承諾がなかったから、民法上の契約は不成立なのかなぁ。