小言幸兵衛&搗屋幸兵衛(その2)

出しかけたお茶、羊羹も引っ込めて、「せっかくだが貸せない」


理由は「長屋で心中が起こってはたまらない」
幸兵衛「…考えてごらんなさい。歳はァ20歳でしょ?ねえ?でェ、職人として腕がよくて、男っぷりがいいン、ねえ?ひとりもんなんだ。こんな物騒なものが越して来てごらんなさい。この近所には年頃の娘がいくらもいるんだ。危なくてしょうがない」


(ここで、貸家の向かいにある古着屋に19歳の綺麗な一人娘・お花がいて、このイケメンが裁縫を個人教授することになり、親が留守の日の誤ちでお花が仕立屋の倅の胤を宿すことになってしまうところまで幸兵衛は強引に勝手な話を進め、どちらも一人息子・一人娘であることから)
「お前さん(仕立屋)がやらない、ね?向こう(古着屋)がくれない。若いもんにしてみなさい、ねえ?おとっつァんおっかさんがああいうわけのわからんないことを言っているから、とてもこの世じゃ添えないから…あの世で夫婦になりましょうと、…どうだ、心中になるだろう」


(あとは幸兵衛の独壇場、芝居仕立てになり…)
「(仕立屋の宗旨が法華であることにまで小言しながら)心中にはちょいと陽気過ぎんだよ、あれァ。『お花、覚悟はよいか』『妙法蓮華経、南無妙法蓮華経!』ドンツク、ドンドン、ツクツク……。…しょうがないじゃないかァ。おばあさん、古着屋はなんだい?ええ?真言でございますゥ?…真言てえとあの『おんあぼきゃ』かい?…『お花、覚悟はよいか』『おん あぼきゃ べいろしゃのう まかぼだら まに はんどま じんばら はりばらたや、うん』…」(⇒有名な「光明真言」ですが、これじゃ、様になりませんネ)


『搗屋(つきや)幸兵衛』では、物腰柔らかな搗米屋さんが貸家を求めて大家の幸兵衛さんに挨拶にやって来ます。
前の借り手も搗米屋(しかも隣家)で懐かしさも手伝って幸兵衛は上機嫌で座布団、お茶をすすめて語り出します。
「貸してもらえるのかどうか」が心配な搗米屋にお構いなく、昔話全開の大家。


奥さんとの馴れ初めに始まって、死別したあとの後妻(最初の奥さんの妹)の話へと進むも、結局は先妻の位牌の位置が毎日後ろ向きに動くのを悋気嫉妬と苦に病んで妹も亡くなるという悲しい顛末。
ところが徹夜までして突き止めた真相は、位牌が回転したのは、隣の若い衆総出で派手に米を搗く搗米屋からの振動によるもの。
搗米屋の名残を残したままの家を貸しに出して、誰か同業者が借りに来たら大(おお)小言をぶつけて女房の仇を取りたかっただけの幸兵衛。
知らずに貸家を借りに来た温厚な搗米屋さんはとんだ災難という、突拍子もない展開に。


寄席で聴けばおそらく『小言』の方が『搗屋』より笑いは多そうですが、自分中心に世界が回り、気に入らないことには容赦なく小言をぶつけて日々を過ごす我儘な両幸兵衛さんをふと羨ましく思ってしまうのは私だけでせうか。
これらの前半部分と流れが似た『小言念仏』(世帯念仏)という噺は、専ら「南無阿弥陀仏」を唱えながら小言を繰り返すパターンですから好きな演者の映像で見るのが一番ですネ。
お後がよろしいようで…