小言幸兵衛&搗屋(つきや)幸兵衛(その1)

上方落語ではあまり聞かないので関東の噺みたいです。
文句ばっかり言っていて、その癖特段の悪気や後腐れがない長屋の大家さんの、相手を選ばぬお小言そのものや想像力の突飛さが可笑しい。
こういう人は、ブツブツ文句を言う瞬間にストレス発散していそうで、周りはいい迷惑ながら、「得な性格」といえるのかもしれません。


(以下、『志ん朝の落語』1&4(ちくま文庫)を主に参照・引用)
冒頭に出て来る文句の対象をいくつか拾ってみると、
「畳の汚れ(猫の足跡)」、「(奥さんの)畳の汚れの拭き取り方(畳の目に沿っていないからキレイにならない)」、「裏の戸が開いていること」、「釜の蓋の曲がり」、「(イライラして奥さんが)猫を蹴飛ばすこと」(『小言幸兵衛』)、
「洗面時間の長い住人」、「炊飯の焦げ」、「子どもを叱って泣かす母親」、「この母親に叱られていつまでも泣きやまない子ども」、「狭い路地に梶棒を下ろしている俥屋」、「結った髷の大きすぎる女の人」、「植木に小便するブチの犬」、「どんよりしたはっきりしない天気」、「(頼んだのに)お茶を出し渋る女房」(『搗屋幸兵衛』)
など(『小言』の文句は『搗屋』の中にもほぼ含まれています。)、留まるところを知らない小言の連発。


『小言幸兵衛』では、「貸家」の札を見てこの大家さんを訪ねる人が登場。
こんな大家だからものの尋ね方も難しい。
「あすこ、家賃いくら」といきなり聞いたものだから、幸兵衛さんは「まだ、おまえさんに貸すとも貸さねえとも言ってない!ものを尋ねる時の順序をわきまえろ」とお説教。
しぶしぶ下手に出たこの人(豆腐屋さん)が結婚7年目で子どもがいないというだけで別れろとお節介。
豆腐屋は、「自分たち夫婦はお互いに好いて好かれて一緒になった仲だと」惚気、同時に「離縁しろ」と言われたのにキレて飛び出してしまいます。


次に現れたのが、対照的な、馬鹿に物言いの丁寧な仕立て屋さん。
妻子に弟子もいると聞いて今度は幸兵衛も上機嫌。
座布団、お茶に羊羹まで奥さんに持って来させて、歓談を始めたのも束の間、今度は二十歳で親を継いだ仕立ての腕も確か、さらには今でいうイケメンの息子(しかも許婚のいない独身)に引っかかります。