胴乱の幸助(その2)

悪い連中がいるもので、お金の持ち合わせがない時に小料理屋で一献傾けたいときに喧嘩のふりをして、そこを通りかかった件の親父に間に入ってもらい、タダ酒に預かろうという輩が登場します。

ただ酒目当てで喧嘩を始めた2人の間に入った親っさんは、このけしからぬ両人を連れて馴染みの小料理屋へ。
(店の人に)「いつもの通りちょっと話があるんで、それが済んだら銚子と小鉢持って来てもらいたい。そこちょっと閉めといてくれるか……。」
「ウォッホン……、お前もぉ泣くな、泣かんと座れ。だいぶに大きな喧嘩をしよったが、わしみたいなもんに、あっさりと喧嘩任してくれておおきありがとぉ。とりあえずんとこ、礼を申します。」
「しかしながら、わしがあいだ入らしてもらうんやけれど『あの親っさん、わけも分からんと理由も何も聞かんと、とにかく頭から抑え付けてしまいよった』といぅことんなったらいかん。やっぱしどぉいぅところから喧嘩になったかといぅ、その筋道だけはっきりさしといた方が、お前らの方にも気持ちが何するちゅ
うもんじゃ。お前の方から言ぅてみぃ、どっから喧嘩になってん?」


《もともとが不純な動機なので応答も要領を得ず、しびれを切らした親っさんは…》
「何言ぅてんねんお前わ……、アホやなこいつ。こんなもんと喧嘩すなお前も。勝ったかて人に自慢でけへんぞ。分かった、もぉ聞こまい。最初だけ分かった、二人で酒呑みたいとか言ぅてたんが勘定がどぉとかで喧嘩になったんじゃ。分かった聞こまい、聞かぬが花じゃ。」

「さぁ、われからひとつ注いだる」
■親っさん、えらい済まんこって、頂戴します、おっきありがとぉ。えらい済まんこってす(クゥクゥクゥ〜)なかなかこら口当たりのえぇ酒でんねぇ
「なんぬかしてけつかんねん、こっち回さんかい。われ注いだろ。」
▲親っさん、えらい済んまへん。よかったね(クゥクゥクゥ〜)なかなか口当たりのよい酒ですねぇ
「なんぬかしてけつかんねん、アホだてらに……。」
「いや、ホンマもんの仲直しはどないなったぁるか知らんけれども、わしゃわしなりの仲直しじゃ(クゥクゥクゥ〜)」
「もっとここに居ってやりたいけども、まぁわしがここに居ると、ほかでまたどんな大きな揉め事が起こるやもわからんでそぉもしてられん。忙しぃ身じゃでな、これで失敬を。」


《スポンサーがいなくなるのではと心配する2人に親っさんは「好きなようにゆっくりしてろ」と告げ、店の人には次のように言付けて帰ります。『鰻の幇間』に出て来る阿漕な男と大違い》
「上の連中、呑ましてやってもらいたい。ほんでまた勘定はいつもの通りうちへ何してくれたらえぇよって。また呑み過ぎてあとでゴチャゴチャ揉めるよぉなことがあったら、ちょっとうちぃ知らしてもらいたい。すぐ取り押さえに……、頼んだぞ。」