寄合酒(その2)

かくして、銘々不適切な(?)手段で酒や肴を調達し、これから料理。ところがこれが思いがけぬ展開に。


まず、ご馳走を横取りされた赤犬の逆襲。Aがこれからの宴会を取り仕切る親父。Bが頼りない調理人。
A「言ぅこと聞かなんだら(赤犬を)バ〜ンとくらわせ」
B「どこ食らわしますか?」
A「どこでもかめへん、頭でも尻尾でも」
B「尻尾ぐらいならえぇやろけど(ポンッ)」「恐わぁ〜まだグ〜ッちゅうてますけどねぇ」


A「尾ぉみたいなもんくらわしたかって、こたえるかい。ドタマ(頭)バ〜ンといけ」
B「ドタマ食らわしていぃですか? もったいないと思うねぇ、目玉やみなうまいねんけどねぇ(ポンッ)それ」


B「あのねぇ、まだ向こぉ行きませんけどね」
A「くらわしたんか?」
B「尾ぉも頭も食らわしましたけどねぇ」
A「こたえん犬やなぁ、胴なか二つ三ついてまえ」
B「胴なかもいくんですか?おい、犬向こぉ行たで」
A「良かった、良かった、鯛、料理しぃ」


B「あれみな犬に食らわしましたけどねぇ」



せっかくぼんぼんと鬼ごっこしてまで獲得した鰹節もやはり…(Aが仕切り役、Bが調理人)
A「鰹のダシは?」
B「ダシだけはもぉできてますんで」
A「早いこと持っといなはれダシ。できたもんなら」
B「ダシ持って来てますけど、どぉぞ使ことくなはれ」
A「これ?こらダシがらや」
B「それ、ダシでしょ」
A「いやいや、これダシがら。これをグラグラっといわした汁はどぉなりました?」
B「あんな湯ぅ、要るんですか?」
A「湯ぅ〜〜」あれがダシやないかい
B「あれダシ?そら言ぅといてもらわんといかんわ。あの湯ぅが要るなら要ると最初から…」
A何が「最初から」や、どぉしたんや?
B「あないよぉ沸いた湯ぅ、ほかすのんもったいないなぁ言ぅたらみな「よぉ沸いてまんなぁグラグラグラいぅてまっせ」言ぅてね、「こら放るのんもったいないで」言ぅてたら、そこへ源さん来はって「フンドシがちょっと汚れてるさかい漬けさしてんか」言ぅてフンドシいま漬けはったとこです。
A「トホホホ……、どこぞの世界にお前、鰹節のダシでフンドシ洗う人がおます」


《以上、主にHP『特選上方落語覚書』枝雀寄席ライブ記録(1985.1.15)より引用》


この噺は、「緊張と緩和」、「明と暗」、「光と影」など、落差やずっこけ度合いの大きさが際立つ佳作だと思います。