堪忍袋(その2)

大きな甕を置く場所もない狭い長屋故、大家さんは、堪忍袋を作って代りに使うことを勧めます。
案外律義なこの夫婦、言われたとおり、喧嘩文句は堪忍袋に思いっきりぶちまけて、そのあと「ひゃはは」、「ひっひっひっ」と作り笑い。
腹に溜まっていたモヤモヤ感や怒りをすっかり放出する快感を覚えた二人は、熾烈の極みだった夫婦喧嘩から卒業します。


ストレス発散法としては、「心の中のわだかまりを書き散らす」のが効果的という研究結果があります。気がかりなことを文章化すると、免疫機能が高まったり不定愁訴などで通っていた診療所の受診回数が減ったりしたとのことですが、明治時代に作られたこの噺は、最新の科学的知見を先取りしているともいえそうです。


この後、長屋中に知れ渡っていた夫婦喧嘩が治まったのを訝る連中が、堪忍袋の効能を聞いて我も我もと借りては袋に向かって怒鳴りこんだため、やがて袋はパンパンに膨らんでしまいます。
明日、中身を適当な場所に捨ててから貸すというのも聞かず堪忍袋を強引にひったくった男の前で、堪忍袋の緒が切れてのサゲ。
以前取り上げたことのある、絵本『てぶくろ』(暖を取るために、おじいさんが雪道に落とした手袋の中に、あり得ないほどたくさんの森の動物がもぐり込んではち切れそうになるお話)がふと思い浮かびました。