狸の賽

鶴の恩返しならぬ狸の恩返しの噺。
ただ、こちらはサイコロ賭博の手伝いで、いわゆる「公序良俗」には反しますが…
浦島太郎に出てくる亀のように、子供たちに苛められていたところを助けてくれた男に恩返しするため、男の家に、まだ幼いその狸がやってきます。
男がそれには及ばないと断りかけるも、仔狸は「…恩返しせなんだら家へ入れてくれまへんねん。御恩を受けたら必ず返さないかん。恩を受けて返すこと知らなんだら人間も一緒やちゅうて、親が言いいまんのん」(『桂米朝コレクション5』(ちくま文庫)より)と義理堅い親の教えを守って何かさせてくれと引き下がりません。それにしても、「恩知らずは人間と同じ」と諭す親狸のプライドの高いこと。


実はこの男、最近負けが混んで困っている博打うち。サイコロに化けてくれと頼んで勝負が始まります。
ここで問題なのが「どの目を出してくれ」という合図。
「6は一番数が多くて三つずつ二列」、「3は6の半分で斜めに並ぶ」など喋りながら指示を出します。
2は「一番楽なやつ」という妙な合図。立って上を向くと両目が2の目を表すというカラクリになっているそう。
ところが、5の表現に窮し、「梅鉢の紋、天神さんや」(真ん中に目が1つ、周囲に残りの4つの意味でしょうが、サイコロの5の形はイメージしにくいですねぇ)というと、冠を被って笏を持った天神さんに化けてしまい万事休す。
目が変わるたびに、逆立ちや転回など、まるで胃のバリウム検査のような目まぐるしい動きをさせられる仔狸はさぞかし大変だったことでしょう。


ところで、日本全国で狸が現れる民家は珍しくないようですが、これまで家に訪れていた狸がめっきり来なくなったのきっかけに、狸追跡に余暇時間のほとんどすべてを奉げるようになったある会社員(人呼んで「東京タヌキ刑事(デカ)」)が、テレビ(NHK・BS2)で紹介されたことがあります。
http://www.nhk.or.jp/n-stadium/14ple/index.html
自宅に監視カメラを据え付け、近くの寺や商店街で「聞き込み」したり、夜を徹して「張り込ん」だり、まるで『執念の刑事』(随分以前に、こんなマイナーな4コマ漫画あったんですけど、わかるかなー、わかんねーだろーなー(こちらも旧く懐かしいギャグでした))。