翻訳(翻案)のすすめ(その3)

≪あちろうさん、「吉兆味ばなし」のご紹介ありがとうございます。ぜひ読んでみようと思います。
「味が若干からそう」とのことですが、マーが料理をする際の基本は「あまり味をつけない」ことです。
多くのレシピどおり先にしっかり濃い(辛い)味付けをしてしまうと、あとで修整しにくいから。
理想は「素材の味を生かした」調味料なしの料理ですが、やはり美味しくないので軽めに調味。ただし、そのときの気分で加減はします。
こんなわけで「同じ料理は二度とできない」のが特徴です。≫


ところで、盛岡のおっちゃんが「あまり好きでない」専門書の類ですが(おっちゃんの知識は物語りを潤すのにあり余るほど豊かに違いありませんが)、マーの場合は、実用書・研究文献とは気楽にヒントにできるところだけ拾う付き合い方をしています。
研究者だったら、関連分野の議論を漏らさず踏まえた上で自説を展開する必要に迫られて、こんないい加減な読み方は許されないことでしょう。


早速拾い読みしてみると、「説明機会を持つことがその内容の理解を深める」ことは、次のような最近の研究成果からもうかがわれます。
(1) 学習課題を人前で説明することが理解度を高める。
  目の前に聞き手がいないビデオ収録場面よりも、対面説明の方が学習効果を確かめる事後テストの成績がよかった。
(伊藤貴昭、垣花真一郎(2009).「説明はなぜ話者自身の理解を促すか」教育心理学研究,57,86-98)
(2) 同じテーマの発表を繰り返し行う場合、最初の発表後に適切な振り返りをした2回目の発表では、説明内容に、日常生活に置き換えた喩などわかりやすさが  加わり、質問にも丁寧に応じられる傾向がみられた。
(田島充士、森田和良(2009).「説明活動が概念理解の促進に及ぼす効果」教育心理学研究,57,478-490)
ことが明らかにされています。


いずれも、聞き手の存在が、説明の組立に影響し、その過程で苦心したり、聞き手の反応をみて新たな気づきをしたりすることが、説明内容に対する理解を深めたり、独りよがりのわかったつもりにとどまらない、聞き手にわかりやすい話し方や姿勢につながるみたいです。
他人に何かを教える機会は人それぞれですが、「仮にこんな説明をして聞いた人はわかるだろうか」を念頭に置いて、新しい知見に触れ自分なりに咀嚼してみれば、通りすがりの知識がひょっとしたら自らの血肉になるかもしれません。