文違い(その1)

騙しの連鎖というか、女郎が馴染み客を騙して用意した20円を、その女郎の間夫(まぶ・本命の客)が騙して受け取り、その男は自分で集めた30円と合せた50円を他の女に貢ぐという、お金が順々に流れていく図式の話です。
お金が流れていかず元に戻るパターンの『持参金』という噺もあります。
こちらは、男が番頭から急遽催促された借金20円を、大家さん仲人の、持参金つきで身重の女を嫁にもらうことにより返すことにしたが、実はこの20円は番頭がその女に支払う手切れ金。
そうすると、お金は番頭→大家→男→番頭と循環することになってしまうという内容。
(なお、当時の20円を現在の貨幣価値に換算するといくらかよくわかりませんが、少なくとも数十万円以上と思われます。)


『文違い』には、落語によくある仕掛けがいくつか施されています。
一つは女の見え透いた嘘に易々と騙され、大金を提供する間抜けな、それでいてどことなくお人好しの男たちの登場。
自分こそが間夫と思い込み急ぎ10円を用意して登楼する半七と、年季が明けたら夫婦になるという約束を信じて疑わない角蔵。
角さんの方は馬の引き取りに友人から預かった15円を、女郎のお杉に「(20円もする特効薬の唐人参を飲ませなければならない病床の)母親と馬とどっちが大事か」と詰め寄られてやむなく献上。
一方、集り癖のある血の通じていない父親との縁切りに20円いるから助けてと騙られた半ちゃんも差額の5円ばかりか、その親父への寸志としてさらに自分から進んで2円差し出します。
ついでながら、お杉に「病気のおっかさんに人参を飲ませなきゃいけない」と深刻な表情で相談を持ちかけられたお惚け角さんが、「それならおらの村に来たら、1円で馬の背に2駄人参が買える」と答えるのも何か可笑しい。この角さんは、『お見立て』に登場する田舎言葉の旦那とそっくり。