刀屋(その1)

刀屋の主人(かなりの年輩)が血気に逸る若い客を宥めるくだりが噺の中心ですが、なんといっても主人の語りに味があり、「こんな年寄りが身近にいればいいのになぁ」と思えるほどです。
奉公先のお嬢さんと恋仲になったのが明るみに出て暇を出され、さらにはお嬢さんの婚礼が急ぎ行われることを知って逆上する徳三郎は、日本橋の刀屋街にある店に飛び込みます。
「2人分斬れる安い刀を売ってくれ」という徳三郎の懇願を不審に思い、相手の反応をうかがいながら徐々に諭しにかかる主人(以下の「    」内は、『志ん朝の落語2』(ちくま文庫)より引用)。


主「…あァた何かわけがおありなんでしょ、…ねぇ?どうしてその、刀があなた要るんです?」
徳「…ご主人の用で、…よく旅をいたしますんで、お店の金をォ、山賊なんかが出てきて、…盗られちゃいけない…から、そのときの用心のために、そのォ刀を買いたいと思いまして」
主「(山賊に素人が太刀打ちできるはずがない話をした後優しく)、いやいやあァた本当は違うんでしょ。ねえ?…(いくつか若い人はこんなことで刀を振り回すものという話を続けた後に)自分の惚れている女を人に奪らいた、悔しいからその女を殺して自分も死のうとか」
「…え、あたしだってねェ、若い時分はありましたよ。…もうこの女のためだったら、命もいらないと思った女がいました。へえ。(振り返って小声で)なんだいばあさん、うるさいねェ。…なぜそうやってこう、トントントントン叩くんだよ、そこらを?ばかだねェ本当にィ。ずぅーっと昔の話だよ。ええ?今意見をしてんだ、黙っといでよォ」
蛇足ながら、このように関係ないところで、ばあさんがやきもちを焼くのも落語に割とあるパターンですよね。