花筏&動物園(その2)

相撲の観客は、花筏が提灯職人の徳さんであることは知る由もなく、ましてや、千鳥ヶ浜との間で何が起こっているのか想像もつかないでしょう。
このようなありがたき誤解の上に成り立つ興行でなくなりつつあるのが今の相撲かもしれません。
マーは、両国の近くが職場だったとき、けいこ時間外の力士の日常を垣間見ることがありました。
自転車で昼日中からふらふら街中を練り歩き、携帯で(彼女と?)駄弁ったりパチンコ屋に入ったり、暇を持て余した「大きな風来坊」の印象で少々がっかり。
「相撲道に精進し、堅忍不抜の精神で…(横綱受諾時の口上など難しい四字熟語が多いですね)稽古に励むのが力士」という誤解のままでいたかった思いもしたものです。
ボクシングでも、あのマイク・タイソンが登場したときは、地味な黒のトランクス、シューズのみでリングに上がり、破格の強烈なパンチ一発で敵を倒す姿に、求道者の雰囲気すら感じましたが、後で振り返ると、多くは箒頭の大物興行師ドン・キングが作り上げた虚像だったのだと思います(王者になった途端、実像とは関係なしに人間性においても完璧な聖人のようなイメージを後から付け加えて英雄を創作してしまうカラクリは、たとえば、リング・ラードナーの『チャンピオン』という作品によく描かれていると思います)。
イギリスの笑話が元ともいわれる『動物園』というお噺は、大関ならぬ虎の代役をたてる筋ですが、出だしと最後が少し似ています。
「勤務時間は朝10時〜午後4時。力仕事や人との応対なし。昼は御馳走が出て、日当ほ1万円以上」という願ってもない条件に乗った男の求人は、移動動物園の虎。
毛皮を被ってただうろうろすればよい(ただし、虎らしい歩き方を俄仕込みで身につけないといけませんが)。
ところが、聞いていなかったライオンとの決闘「猛獣ショー」がセットされる羽目に。
おろおろするばかりの、虎になりすました男。
もっとも、それまでに子どもが持っていたパンをせがんだりして、観客から「弱そうな虎」の烙印を押されてしまうのですが…
ネタばらしをすると、ライオンも被り物を纏った雇われ。
ショー・ビジネス(見世物)の世界の実際の姿はやはり与り知らぬ事情が付きもののようです。