花筏&動物園(その1)

花筏大阪相撲の日本一ともいわれた最強の大関(この噺の当時は、相撲は江戸と上方に分かれ、横綱はなかったそう)の名前。
ところが、地方巡業の際、この大看板が急病になり、急遽影武者を立てることに。
白羽の矢が立ったのが提灯屋の徳さん。相撲の心得なぞ皆無の肥満体ながら風貌が花筏そっくり。
最初は固辞していたものの、「相撲は病気故取らなくてよく、土俵入りの真似事さえすれば、後は呑み放題食べ放題で日当は本業の提灯張りの倍」という甘言に惹かれて時の名大関を演じます。
ところが、豪快な呑みっぷり、食べっぷりで、調子に乗って夜這いまでしていたのが明るみに出て仮病疑惑が捲き起こり、素人ながら玄人力士を派手に投げ飛ばして勝ち抜き戦無敵の猛者、千鳥が浜と千秋楽結びの一番で対戦という筋書きにない展開になってしまいます。
千鳥が浜と対戦せざるを得ない窮地に追い込まれ、「(自分が土俵で叩き殺されても身から出た錆びだが)哀れなのが3つになる女房と25の倅」とわけのわからないことを言うくらいうろたえる徳さんは、実際土俵に上がって千鳥が浜の鬼気迫る目を見て、これがこの世の見納めかと「なんまんだぶつ」と思わず唱え涙を流しますが、これが地元の網元の跡取り、千鳥が浜の思いがけない誤解をもたらします。
「ああ、やっぱりお父つぁんの言うた通り、こいつわしを殺す腹や。そやけど可哀そうなちゅうんで涙こぼして、念仏となえてくれてる。ああー親の言いつけを守らなんだばっかりにここで命を落とすのか、これがこの世の見納めか」(『桂米朝コレクション7』ちくま文庫より)――行司の仕切りの最中に、父親の忠告、「力士連中が、素人に負かされた腹いせに、千鳥が浜を土俵でたたき殺すために最後の一番で花筏を出してくる。間違っても土俵には上がらぬよう」を思い出します。
戦意喪失し茫然と立ち尽くす千鳥が浜と、とにかく突進することしか頭にない徳さん(相手のからだに触れるや否や後ろへひっくり返って「やはり病気だった」と言い訳をする作戦ではありますが)との立ち合いへ…