火焔太鼓(その1)

≪先週末は、みなとみらいホールの日フィルコンサートに行って来ました。
広上淳一さんの指揮。漫画『のだめカンタービレ』に登場する「背の低いジャンプする指揮者」のモデルとの噂もあるdancing conductorです。
ベートーヴェン交響曲第8番は、ホッとするような長閑ささえ感じさせる調べで新しい発見をした思いでした。
モーツァルトの協奏曲(『戴冠式』)で共演したピアニスト辻井伸行さんが壇上で転んだりしないよう付き添う姿にも人柄の優しさが滲んでいました。
マーが「クラッシック界の桂枝雀」と勝手に呼んでいるお気に入りの指揮者です。≫


『火焔太鼓』は志ん朝の十八番。落語によくあるパターンで、しっかり者の奥さんとぼんやり亭主の組み合わせ(マー家は違いますので念のため)。
売れない道具屋にふらっと入ってきた箪笥ご所望のお客さんに10年以上も売れていない箪笥だということを聞かれもしないのに説明する一方、必需品の火鉢を向かいの米屋に売ってしまい寒くなるとその米屋にあたりに行く、ほぼ商才ゼロの主人が掘り出し物と仕入れてきたのが埃まみれの汚い古太鼓。
店の小僧に埃をはたかせているとついでにドンドコ大きな音が鳴ってしまい、その音に通りがかった殿様が興味を持って屋敷に持参するよう命じるあたりから話がおもしろくなって来ます。
あんな汚い太鼓に高値がつくはずもないと思いこんだ奥さんは、太鼓を持って出かけようとする亭主に「『あ、俺は一人前じゃあないんだな、おれァ半人前なんだ、ひとより血の巡りが悪いんだ、なっ、おれはばかなんだ、ばかが太鼓を背負って歩いてんだ』ってこと、忘れちゃいけないよ!」(『志ん朝の落語5』(ちくま文庫)より)とほとんど罵倒に近い言葉を浴びせます。
この「口の暴力」(時には腕づくの暴力より強烈だったりします。)にはさすがのぼんやり亭主もキレますが、これで仲違いするかといえばそうでもない。
のべつ喧嘩をしている『厩火事』の夫婦も類例でしょう。夫婦仲はどうも理屈ではすっきり説明できない感じがします。
昔のある判例では、不貞を働いた夫が、嫉妬のあまり度々の暴言・暴行に及んだ妻に対して離婚を請求したところ、「夫が勝手に情婦を持ち、妻を追い出す請求が是認されるならば、妻は全く俗にいう踏んだり蹴たりである」としてこれを退けたくらいですから、落語の時代の夫婦間の暴言は「婚姻を継続し難い重大な理由」とは考えられていなかったのかもしれません(この判例が「踏んだり蹴たり判決」として有名なのも可笑しみがあります)。