厄払い(かつぎや)(その2)


まず、『厄払い』は遊んでいる主人公へのバイトあっせんから始まります(ここは『米揚げ笊』も同様。米揚げ笊は、序にいうと仕事の世話をしてくれる人のところに辿り着くまでのやり取りが『池田の猪飼』と同様)。
米朝さんは、この新米厄払いが夜なき鍋焼きうどん屋をつかまえて売り声の練習をしているつもりが、「なべやーく払い」と連呼するたびにうどんの注文が入り、危うく利用されそうになる展開にしています(『桂米朝コレクション4』(ちくま文庫)より)。
一番のおかしみは、この(いんちき)厄払いが、自分を呼んでくれた商家の番頭を相手に、虎の巻を見ながら語る出鱈目でしょうか。
○ 「あーらめでたやな」が「あらめ(を)うでたやな」
  この手の読み間違えはマーも割とします。高校時代、古典の授業で指名され、「あいぎやうづきたる」(愛敬づくは「かわいらしい」の意)を「あいぎや、疼きたる」と読み、先生に「君、疼いちゃいかんよ」と言われたのをなぜか今でも覚えています。
○ 「鶴は千年、亀は万年」を「鶴は十年、亀は一ヵ年」
  甚兵衛さんに書いてもらった虎の巻の掠れ字を隠しながら覗いたための読み違え。コピーライターの作品か何かに「鶴はせんべい噛めまへんねん」というのがあったような。
なぜか、この商家、主人も番頭も、お金を弾んだのに全く役に立たない厄払いをあまり咎めません。最後は「(にわか雨に見舞われて)降るは千年、雨は万年」など自ら験直しまでするくらい。こんな和やかな雰囲気の店なら、奉公人も働きやすく、そこそこ繁盛しそうな気がします。