『化け物使い』と『ひとり酒盛』(その2)

「こき使われているのに案外腹が立たないばかりか、時には進んで奉仕しよう」という気を起こさせる条件にはどんなものがあるでしょう。たとえば、
(1) 働いてくれている人を心から褒める(感情に任せた非難・叱責は極力控える)、
(2) 使われている側が納得できるような意味のある仕事を任せる、
(3) 結果について肯定的なフォローをする(やらせっ放しではなく、役に立っていることを意識的に伝える)、
(4) やってもらったことをよく覚えている(せっかく苦労してやり遂げたのと同じことを、不用意に再び頼まれたりすると、その人が一旦抱いた達成感は地に落ちるかもしれません。)
などが思い浮かびます。
噺の中では、狸ですら持っていたと思われるプライドを尊重することが基本だと思います。心理学でよく紹介される無力感を起こさせる手っ取り早い作業(延々と2つのバケツを使って砂の移し変え(Aのバケツ→Bのバケツに砂を移したら、今度はB→Aに砂を戻し、さらにA→Bと継続)をさせる無意味な繰り返しなど)でもわかるように、「苦労したことの意味、報い」を求める人間の自然な気持ちに対するケアの欠如がさまざまな職場で働き甲斐を損なっているような気がします。この視点なしにモラール高揚を説いても空しいのではないでしょうか。
『ひとり酒盛』は、私は先代の笑福亭松鶴の語りが好きでした。親切な友人に上燗をつけさせて平然と自分だけで呑み、ついには罵倒して帰らせてしまう、という単純で楽しくない筋だけに、いい酒を独り占めしようとするのが頷ける本物の(酒癖もそこそこ悪い)お酒呑みが演じて初めて落語らしくなると思います。