待つこと(寝かせておくこと)も大切

「待てば海路(甘露)の日和あり」という言葉があります。
学校や職場では、宿題提出の期限や製品の納期などに追われることが多く、「待っていたら叱られる」場面ばかりのようにも思えます。
でも立ち止まることを忘れてしまったら、自分を見失ったり、出るはずのよいアイデアも浮かんで来ないということになりはしないでしょうか(「止まると死ぬのじゃ〜」という間寛平のギャグもありましたが)。
一般に定型的な作業や○×式で正解が定まる課題の場合は、期限厳守が基本ですし、期限よりも早く結果を出すことが望ましいとされるほどです。「そんなに急いでどこへ行く」と言いたくなることありますよね(ない人もいるのかしら)。
ところが、正解が見えない、方向性すらはっきりしない課題は、実生活にあふれています。
さらには、現時点では、よい解決方法がないことだけが明らかな難題まであります。時には、「今は何もしない」というやり方がもう少し評価されてもよさそうな気がします。
下の本で神谷美恵子は、判断停止(エポケー)を説いています。著作集の全体印象から、立ち止まることなく思索をぐんぐん深めていくタイプに映るこの先生の言葉としては意外でした。
でも、時間的にもどうにもしがたい過去にとらわれることを止めることで、全てを今解決しようとせず、今起こっている現実とまず向き合うことは生活の知恵と思います。
中には、時間をかけて考え抜けば、ひょっとしたら解決の糸口が見つかりそうな課題もあるでしょう。「ひらめくのを待つ」(俳優の勝新太郎は「神が天井から降りて来る」と表現したそうです(『天才 勝新太郎』(文春新書、春日太一著)による。))手もあります。
「一見、問題解決を放棄したようにみえる時期がある期間続いた後、思いがけない時にひらめきが現われる」、「ひらめきは、…あたかも本人のそれまでの主体的な努力とは関係なく、授けられたような感じで出現する」(平凡社『心理学辞典』 p.530) からです。
レミニセンス(reminiscence、学習した内容の記憶で、条件次第では一定期間をおいてからの方が成績がよくなること)、ゼイガルニーク効果(Zeigarnik effect、中断された作業の再生は、中断しないで完了した作業の再生と比べると、平均して約2倍の再生率を示した古典的実験結果)などからみても、「待つ」あるいは、「答を急がず、たまには懸案であってもしばらく寝かせておくこと」の効用も見直してみたいものです。