宿替え(粗忽の釘) (その1)

「そそっかしい」が主題ですが、面白さは、むしろ「しっかり者の奥さんと口では負ける夫(主人公)との掛け合い」、「目の前のことだけ一所懸命になるあまり滑稽なことを繰り返す主人公」の部分でしょうか。小三治と枝雀の口演で何回か聞きましたが、それぞれに個性があり、笑いのポイントが異なります。
まず、小三治の方から(『柳家小三治の落語2』(小学館文庫)を参考にしました。)
小三治のまくらは、まくらだけ取り出した本が出ているほどで魅力的です。説教にならない範囲で、江戸っ子の気風のよさというか、ものごとについてはっきり考えを示していて清々しさすら感じます。
「そそっかしい」はマメなのと不精なのに分かれる。銭湯の例でたとえると、マメな粗忽者は、持って行くのに、なかなか手ぬぐいの名前が思い浮かばず、バケツ、雑巾、鉄瓶など見当外れのものばかり口に出してやっとのことで手ぬぐいに行き着く。一方、不精な方は男は黙って銭湯に鉄瓶をぶら下げて行ってしまう。⇒なるほど。
この噺、最初は男が風呂敷に荷物を包んで背負って運ぼうとするところから始まります。荷物は、箪笥、火鉢、針箱、瓢箪で、持ち上がらないので瓢箪、針箱、火鉢の順に下ろして結局箪笥だけで出発。奥さんにからかわれますが、「軽い物を下ろすだけでも気分が変わって持ち上がる」と言い張って瓢箪、針箱だけ下ろしてもやはり同じこと。
対して、枝雀の『宿替え』では、荷物が櫓炬燵、漬物石、オマル(稲荷さんの道具入り)、瓢箪、針刺し、竹とんぼを風呂敷にまとめて女房の細帯でさらに括り付けたものの、家の敷居までついでに括ったため身動き取れず。結局、竹とんぼ、針刺し、オマルを下ろして出発。
(ライブ記録 http://homepage3.nifty.com/rakugo/kamigata/index1.htm を参照しました。)