「約束」ってなんだろう

村山由佳『約束』は一見絵本風ですが、数年前、中学入試問題の出典上位作でした。脱線しますが、小学校6年生が解かされる国語入試問題文の手強いこと。かなり心得のある大人でも満点を取るのは至難です。「たかが小学生の問題」と侮れません。
それだけに、この本は大人にとっても読み応えがあります。
テーマは、原因不明の不治の病に倒れた級友をタイムマシンに乗せるという約束で、もちろん本物に乗り込ませ、根治できる時代に移動して命を救うことは叶わなかったものの、小学校時代に交わした約束の意味を成人してからも問い続けるお話になっています。
約束には、いろいろあります。プレゼントやご褒美、デートや会合、お金の貸し借りなど日常的なものに始まって、就職、結婚も考えてみればそうですし、学校や会社のきまりごとや課題、目的のあるトレーニングや試合・試験の成績、病気の治療、選挙公約、さらには一方的な希望になりがちですが親孝行、子の面倒見や健康・長生きまで、一種の約束といえるかもしれません。
それらには、実現できるものとそうでないものがあり、最初は守るはずのものが不本意ながら結果的にはできなかったという場合も少なくないでしょう。でも、相手のことを忘れない限り、約束にはわずかではあってもやはり意味があるのだと思います。
本物のタイムマシンの完成は果たせなかったとしても、難病の級友(ヤンチャ)のことを思い出して紡ぎ上げた物語そのものが、残された仲間たち(ワタル、ノリオ、ハム太)にとって未来に向かって受け継がれていくタイムマシン(ただし、生きた時代より前に戻ることはできない不完全品)にはなり得る(と信じてよい)ことを、この作品は示唆してくれているようです。