ある地酒の店の思い出

盛岡のお酒好きおじさんが今日も美味しくお酒を嗜むことができるよう祈念しつつ、昔話をしてみたいと思います。
20年余り前のことですが、赤坂に「地酒の店・八」という、飲み屋がありました。
蔵元のオジサンよろしく、前垂れをつけた雰囲気のある、やや年輩の店員が数名。場所柄、値段はやや高めでしたが、料理の質も高く(凝った味付けはせず素材を活かす流儀、鮮度も抜群)、コストパフォーマンスは満足できる店でした。
地酒の品揃えが豊富で、注文するたび、その一升瓶を目の前に持ってきて皿つきの枡に並々と注いでくれました。今では居酒屋によくあるこのサービスも、当時はとても珍しかった記憶があります。 
「すっきりした辛口を」、「今日は、香りがよくて味がしっかりした感じのを」など感覚的な注文をしても、その条件に合う酒を複数並べる、ワインでいうソムリエ(ただし、気取らない)のような応対で酒の見立ても確かでした。
ただ、「美味しい酒には目がない」マーは、この店でよく叱られました。4杯目を頼むと「吟味した酒の味がわからないから」と却下。ただ、不思議と腹は立ちませんでした。お酒に対する店の真摯な姿勢が、酔っ払いの微かな理性というか良心のようなものに響いたのかもしれません。当時5年間ほど通い、転勤でご無沙汰した後、訪ねてみると影も形もなくなっていました。「一所懸命選んだ酒を気持ちよく味わってほしい」というまっすぐな信念がこれほど感じられる店には、その後出会ったことがありません。
ここで初めて飲んだ地酒の銘柄をいくつか並べてみます。お酒の好みは人それぞれですが、大概の方はこの中に一つや二つ、きっとお気に入りが見つかると思います。
☆ 男山、北の誉(北海道)
★ 田酒、喜久泉(青森)
☆ 南部美人七福神、酔仙(岩手)
★ 沢の泉、一の蔵(宮城)
☆ 飛良泉、日の丸、白瀑(秋田)
★ 出羽桜、米鶴、東光(山形)
☆ 一人娘、郷の誉(茨城)
★ 白瀧、月不見の池、清泉、〆張鶴、久保田(新潟)
☆ 幻の瀧、満寿泉、銀盤(富山)
★ 天狗舞手取川、萬才楽(石川)
☆ 礼泉、久寿玉、三千盛(岐阜)
★ 磯自慢、開運、若竹(静岡)
☆ 誠鏡、酔心(広島)
★ 土佐鶴、酔鯨(高知)