二番煎じ(その2)

2の組を送り出すと、世話役は番小屋の戸締りを命じ、徐に月番に娘が持たしてくれたという瓢箪に入れた酒を回し飲みしようと提案。
ところが、頭の固い月番は「お役人に見つかったらどうなる!あなたは諌める立場にある先生役でしょう」と固辞し瓢箪を没収、
と思いきや、お茶が入っていた土瓶を空けて瓢箪から酒を映し、竈で燗を始めます。
理屈も揮っていて、瓢箪から出る酒でなく「土瓶から出る煎じ薬」と言い張る算段。


そこへ人のよい惣助さんが、猪鍋の材料を持参していることを打ち明けます。肝腎の鍋がないと周りが心配すると、背中に背負ってきたとのこと。


酒と猪鍋でご機嫌になってきた1の組の面々。番頭以下小僧まで流行風邪で渋々火の用心に参加したはず、の伊勢屋の旦那も次のように語り始めます。
「…さっき外があんまりその、寒かったもんですから、火にあたったでしょ、こう、火照ってました。ええ。そこへこの酒が入ったんで、パアーッと…、もう、たいそう暖かくなりましたよ、ええ。ありがたいですなァ、じわっときてます、ええ、どうも、へっへっへっへっ、どうもっへっへ。ええ、こういうことがあるんでしたらねえ、ええ、番頭は寄越しませんよ。もーう、あしたっからあたくとが毎晩出てまいります。ええ。えー、あしたはこれで寄せ鍋かなんか…」


さっきまで外で「火のよォォーゥゥじィんーーー、さっしゃアーりやしォォーーう!」と吉原仕込みの名調子を披露した辰つァん、今度は都々逸で「ええーエ さわぐ 鴉(からす)ゥにイ 石ィィーィイ投げつけりゃーァ、それでェェーェェおてェらのォォォ鐘が鳴るゥゥゥ」と唄う(これも文字では不十分なので、志ん朝師匠の喉をお確かめください)始末。


ここでお役人登場(1の組一同、狼狽)。
「今、拙者が入ってまいった折に、なにか、土瓶のようなものをしまったな。あれは何だ」
(「…ああ…、あれはなんでございます、このオ…、惣助さんが…」)
「うむ。拙者が『番』と申したら『シッ』、『番、番』と申したら『シッシッ』と申した。あれは何だ」
(「え…、あれはあのオ、この、(答えにつまって)惣助さん…」)
お人好しはこういうピンチの時、ひどい目に会う確率が高そうです。


結局、月番が腹を据えて、煎じ薬(酒)、煎じ薬の口直し(猪鍋)をお役人に提供。
案に相違して、風邪気味だったらしい(?)お役人もご機嫌(←寒空の中、何か楽しみでもないとやってられない割の悪い仕事だったのかもしれません)。
「よい煎じ薬じゃ」
「口直しがよいと、煎じ薬も進むのう、うーむ。いま一杯もらいたい」


せっかくの美酒をお役人に飲み干されては大変と、「煎じ薬が切れまして」と報告すると、「二番を煎じておけ」と命じられてのオチ。

(主に『志ん朝の落語6』(ちくま文庫)より引用)


これといった事件も何も起きない話ながら、どうせならこんな火廻りの方が愉快だろうにという夢を描いて見せた作品のようにも思えます。
もっとも、度が過ぎると番屋が真っ先に火事になっちゃうかもしれませんけれど。