こんな本おもしろかったです(その10)

自分では支えきれないほどの、それでいてその道のプロだけが見抜くことができる隠れた才能と、その持ち主が目指す果てしない高み−『ヒカルの碁』や『バッテリー』にも同質のものを感じます−が過不足なく描かれていて、読んでいてところどころ胸がキュンとなります。なぜかわかりませんが…。
囲碁棋士が石をピシリと打つとき、ピッチャーがまっすぐの剛速球を投げ込むとき、ボクサーが渾身のパンチを繰り出すとき、それぞれの動作は、後に続く相手の動き次第で成否が決まりますが、その一瞬にはどうなるのか全くわからない、しかし、主人公はさらなる高みを信じてその瞬間に全てを委ねている、これらのあまりの純粋さ(『20億光年の孤独』(谷川俊太郎)で思わずくしゃみをする僕のような)に私の体が思わず反応するのだと想像します。
先日、エスカレーターでいかにもボクシングジムの練習生風の体格のよい男がボロボロになったこの本を読んでいるのに出交わしました。読み始めると物語の中に入り込んでしまう力を秘めた作品だと思います。