『抜け雀』と『ねずみ』(その2)

多くの人は、いずれの噺でも、主人の人柄もあって、流行らなかったボロ宿に親近感を抱くのではないでしょうか。
評判が頗るいいのに、辛酸を嘗める主人は落語に割と出てくるようです。たとえば『帯久』の呉服屋和泉屋与兵衛など。
さらに両話では、外見からは想像もつかないが名人が登場して入魂の仕事ぶり、その後傑作を一目見ようと宿が大繁盛へと続く流れもよく似ています。
つくりものが動き出す落語には、他にも『ぬの字鼠』があります。お仕置きで後ろ手に木へ括り付けられた小僧さんが落ち葉を集めて描いた「ぬ」の字が鼠に変身して縄を噛み切って助けてくれる、鼠を模した「ぬ」の字に命が宿る噺(これもやはり鼠)。名人ではなくともひたむきな一念が奇跡を生みます。
「表現した動物が動き出すほどの名作」がどんなものか想像もつきませんが私がこれまで見た中で、芸の極致に触れる思いがしたのは、次のような作品です。
平櫛田中美術館(岡山県)の作品…彫刻の迫力を最も感じた作家の一人です。この美術館には3回ほど行ったことがありますが、もう一度尋ねたい気がするほど。東京にも美術館があるそうです。
京都相国寺法堂天井の「蟠龍図」…龍を見つめながらお堂を歩くと絶えずこちらを向いていて追いかけられる気がします。手を叩くと反響音があり、龍の鳴き声に聞こえるとして「鳴き龍」の呼び名も。天龍寺法堂の動く龍も有名。
円山応挙の虎…迫力十分で上の龍同様見ている人に合わせて動くような感じがします。ただ、目は猫風だそうで、『ねずみ』と同じく怖がられるかも。