いわゆる7・5・3現象について(その2)

多数の識者の玉石混交の議論がある中で、一つの要因は「仕事に対する飽き」と考えます。長閑だった学生時代とサラリーマン生活との、あるいは入社前後の期待と現実とのギャップの大きさから3日ともたないで会社を飛び出す人がいるとして、その他大勢は少しくらい我慢もしながら出勤するはずです。
ところがその会社が行き当たりばったりの経営をするなど、将来の展望が描けない状態が続くとしたらどうでしょう。会社に行っても感動体験(うれしい誤算やサプライズ)がなく、何年務めたらどんな仕事を任されるようになるのかいつまでもはっきりしなければ、やがては退屈(心的飽和 Mental Saturation)が生じます。
退屈の度合が高まって「仕事が嫌」という過飽和に至ると、軌道修正が難しくなります。「心的飽和は本質的に疲労とは同一でない。過飽和の状態がきわめて長い休止後でも存続することがある」(平凡社『新版 心理学辞典』p.429)からです。
経団連調査(2009年)によると、採用選考で重視する点は、「コミュニケーション能力」、「協調性」、「主体性」、「チャレンジ精神」、「誠実性」、「責任感」が主流となっています。平たくいえば、人当たりがよく自分の言動に責任が持てる人物像に近い。
この調査では「職業観・就業意識」、「専門性」、「一般常識」、「学業成績」、「語学力」のウェイトは相対的にみて低く、一般に大切とされる仕事に係る能力や適性は必ずしも必須事項ではありません。履歴書に資格をずらりと並べたところで会社によっては「勉強好きだなぁ。ひょっとしたら資格オタクかも」とネガティヴな評価を受けることすらあるみたいです。
となると、当面の過飽和予防のカギは月並みながら「コミュニケーション」(「呑兵衛おじさん」風にいうとノミニケーション。上司と呑みに誘われると残業と受け止める若手は増えている感じはしますが。)ではないでしょうか。
これは本来双方向のものだから、もっと会社が新入社員に対してメッセージを伝えるべきで、この部分をアウトソーシングによる定型的な研修で代替していたのでは、過飽和に至る社員が増えても不思議でないし、元気がなくなってきた若者を申し訳程度に休ませて気分転換を図っても効果は果果しくなさそうです。
仕事動機づけは、「一生懸命働く甲斐」(報酬や昇進だけでなく、職場が盛り上がることや職域が広がることも含まれる。)に左右されるという説もあります。たとえ少々物足りなくとも新入社員一人一人がちょっとでも進歩したことを受容し、時には褒める社風が早期離職の歯止めになるのではないでしょうか。
会社も若手社員もお互いのよさを見届けぬまま、別れてしまう(離職)としたら、もったいないことだと思えてなりません。